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本屋
大きな書店がある町。条件はそれだけだった。充実したジャンルと、新刊はもちろん、古いのも作者別に多く揃えていること。僕が選んだのは、本屋と喫茶店が並ぶ通りの裏手にある団地だった。引越しの準備は順調に行った。前のアパートより少し狭いが新築で、公園のある環境も気に入った。不動産屋に部屋を見せてもらっている最中に彼女からメールが届いた。またよくわからない文面に、写真が一枚添付されている。それは炎をあげて燃える山を、麓から撮った写真だった。何処だ。タイトルは「春の野焼き。」このリトルヒントで解れと言うのか。ああ、解った。阿蘇だ。「お仕事ですか?」ケータイを見たまま考え込む僕を見て、心配そうに不動産屋は言った。「あ、すいません。大丈夫です。」
不動産屋からの帰り、新居の近隣を散歩し、書店に入る。興味をそそるタイトルはたくさんあるのに、どうも集中できない。さっきのメールのせいだ。生活だけでなく、互いの状況に変化が起きようとしている。彼女はどうやら、物語を一つ書き終えようとしている。その小さいけれど確実な事実に、僕は動揺していた。そろそろ、解いてやらなくちゃいけないのかな。手にしていた一冊を閉じ、棚へ戻すと何も持たずに僕は本屋を出た。
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